こんにちは。税理士の川里です。第15回目のコラムは、「贈与」について事例を交えながら書いていきたいと思います。
まずは事例です。
事例1
私の父は資産家で、私は一人娘です。
父は自分が亡くなったら相続税がかかってしまうことをとても気にしています。
そのため、110万円までだったら贈与税がかからないからと、毎年お金を贈与してくれていました。
数年前に投資用タワーマンションを買うことになり父に相談したところ、2,500万円出してくれることになりました。
しかし、受取ることで贈与税がかかるのではとネットで調べると
「相続時精算課税制度」を選択すれば2,500万円までは贈与税がかからなくてすむことを知りました。
自分で税務署への届出や申告を済ませました。
また、その年は2,500万円を受け取りましたが、次の年からは例年通り110万円お金をもらっていました。
昨年父が亡くなり、相続税の申告をすることになりました。
しかし、過去に2,500万円の援助を受けていたことはすっかり忘れてしまい、税理士には言わないまま申告書を提出してしまいました。
その後税務署から連絡があり、相続税申告書に「相続時精算課税制度による贈与財産」が記載されていないとの指摘がありました。
さらに、2,500万円を受け取った翌年以降に父から毎年受け取っていた110万円についても
贈与税の期限後申告と相続税申告書への追加計上をしなくてはならず、
延滞税や加算税も含めて多額の納税をすることになってしまいました。
【解説】
- 1. 相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度は、「生前贈与」とも呼ばれることがあります。
贈与時の税負担を少なくしておいて、相続時に精算(後払い)する制度ですが、
非課税枠2,500万円という数字だけが一人歩きをして、制度をよく理解しないまま使っている人が多いようです。・非課税枠
選択後、一生の累計額2,500万円
・適用対象者
贈与者は満60歳以上の親や祖父母
受贈者は満20歳以上の子や孫(養子を含みます)
・申告
必ず届出及び申告が必要
・税率
一律20%
・相続税との関係
相続発生時に、贈与財産は全て相続財産に持ち戻され相続税が計算されます簡単に言うと、累計2,500万円まで非課税というのは「贈与税が非課税」というだけで
相続税も含めて税金が全くかからないということではありません。
尚、年110万円までは非課税という通常の制度(暦年課税制度)についても、
相続開始前3年の贈与については、贈与財産の価額を相続財産に加算する「3年内贈与加算」という仕組みがありますが、
相続時精算課税制度による贈与については、
3年を超える、例えば10年以上前の贈与であっても制度選択後の贈与について全て相続財産に加算して相続税の申告をしなければなりません。 - 2. 相続時精算課税制度と暦年課税制度の選択
相続時精算課税制度を選択した後は、その選択をした父母・祖父母からの贈与について暦年課税制度を使うことができません。
例えば父からの贈与について相続時精算課税制度を選択して2,500万円を受け取った後、
父から110万円の贈与を受けた場合には、110万円×20%=22万円の贈与税を申告し、
かつ、父の相続時には2,500万円だけではなく110万円も相続財産に加算して、相続税で精算する必要があります
(この場合に、既に支払った22万円の贈与税は相続税の前払いとして相続税から控除することができます)。相続時精算課税制度の活用にはメリットだけでなくデメリットもしっかり理解する必要がありますので
税理士等の専門家に相談した方が良いでしょう。
いかがだったでしょうか?
ご不明な点がございましたご連絡を頂ければと思います。
税理士 川里隆之