こんにちは。税理士の川里です。第14回目のコラムは、「贈与」について事例を交えながら書いていきたいと思います。
まずは事例です。
事例1
夫の三周忌をもうすぐ迎える未亡人です。
夫は1億円近い金融資産と都内一等地に自宅を残してくれました。
夫は私の老後を心配して、遺言で財産のほとんどを私に相続させ、4人の娘たちには、500万ずつの現金を相続させると書いてくれましたので、遺言のとおり相続しました。
夫の死後、一人暮らしとなった私のところへ、娘たちが入れ替わり立ち替わりやってきました。
ある日二女が、
「お母さんにもしものことがあったら今度は配偶者の軽減がないのだから相続税が大変よ、早く生前に贈与してよ」
と言い出しました。
「孫やひ孫に学費の資金を贈与しても贈与税がかからない制度があって相続税対策になるって」
と言い、二女の孫に教育資金の一括贈与の制度で1,500万円贈与しました。
それを聞きつけた三女、四女のそれぞれの孫へもしぶしぶ贈与しました。
長女は、孫が結婚するにあたり住宅を購入するので、
1,000万円資金を援助してあげてと言い、
「妹たちには1,500万円あげたのだから、公平に結婚・子育て資金の一括贈与で500万円も後で贈与してね」
と請求してきました。
夫の残してくれた金融資産は、いつしか1億円から2,000万円になってしまいました。
私の収入は遺族年金だけですが、夫がもらっていた時に比べると金額は少額となっています。
今はなるべく生活費を切り詰めて、2,000万円を減らさないようにしています。
友人から、
「教育資金や生活費の贈与はその都度あげれば、贈与税がかからないから、そんな大金を一度にあげなければよかったのに。
相続税もそんなにかからないわよ」
と聞き、何も、自分の生活を切り詰めてまでこれから将来がある若い孫たちに贈与することはなかったとつくづく早まった贈与を悔やんでいます。
【解説】
- 1.直系卑属への生活費等の一括贈与の非課税規定について
直系卑属へ贈与税がかからず一括して資金を贈与できる制度として
①1,500万円まで非課税の祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
②1,000万円まで非課税の父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度
③年度によって非課税の金額が変わる住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度
が現在設けられています。 - 2.生活費や教育費の贈与
扶養義務者相互間において生活費または教育費に充てるために贈与を受けた財産のうち
「通常必要と認められるもの」については贈与税の課税対象とならないとされています。 - 3.生前贈与と相続
相続税がかかるような方には生前贈与は大変有効な相続税対策となります。
ただし、事例のように相続税対策として多額の生前贈与をする場合は、まず自分の相続税がいくらなのか計算してから実行に移してください。
相続税がかからない、心配するほどではなかったと知り、生前贈与を取りやめる方もいます。
また、贈与は相続一人一人に公平に行わないと相続人間で問題を起こしかねません。
一人の相続人やその子供や孫に多額の贈与をした場合は、他の相続人たちにも同じく贈与しなければならなくなりかねません。
事例の場合、上記2のように、二女に本当に必要な都度お金を贈与するか、教育資金の一括贈与制度を利用して最初に二女に贈与する際には、もっと少額の金額で贈与したほうがよかったでしょう。
いかがだったでしょうか?
ご不明な点がございましたご連絡を頂ければと思います。
税理士 川里隆之